お嬢様、今夜も溺愛いたします。
「えっ!?
ど、どうして私の名前……」
ますます危ない匂いがする。
タラりと冷や汗が背中を伝い、カンカンと頭の中に警告音が鳴り響く。
に、逃げなきゃ。
絶対やばい状況だよね、これ。
恐怖に固まる足を、なんとか動かそうと頑張る。
動けっ!!
私の足!!
バレないように、一歩ずつ、後ろへ下がろうとした時。
「説明は後ほど。
とにかく、お車へ」
すると男の人はなぜか私の背と膝裏に手を回す。
「は?
な、なにして……っ」
「旦那様がお待ちです。
時間がありませんので、多少の強引はお許しください」
真顔でそう言うと、そのままスタスタと歩き始める。
「ちょ、ちょっと!?」
だからって、なんでお姫様だっこ!?
これじゃあ、逃げられないじゃないっ!!
ジタバタして無理やり下りようと思ったけど、
「危ないですから抵抗されませんように。
お嬢様にお怪我をされてしまっては、私(わたくし)の心臓は、いくつあっても足りませんので」
「は?」
どういうこと?
私が怪我すると、なんでこの人に心配される必要が?
それから男の人は黙ってしまったために、結局大人しくしているしかできなかった私。
そして道路の端に、でーんと止まっていたバカでかい黒塗りのリムジンに、あれよあれよと乗せられてしまった。