お嬢様、今夜も溺愛いたします。

「驚かせてすまなかったのぉ、美都。
まずはほれ、これでもお飲み」


「あ、ありがとうございます……?」


未だピリピリとした空気が流れる中、旦那様の斜め横に座った私に差し出されたのは、澄んだ色をしたアールグレイ。


めちゃめちゃおいしい……


「旦那様、これ……すごくいい香りですね」


「そうじゃろう、そうじゃろう。
喜んでくれたなら、わしも嬉しいよ」


さっきまでの厳しい表情はとっくに消え去り目尻が下がっていて、とても嬉しそう。


和やかな空気に、私も思わずほんわか。


なんだかこうやって見ると、普通のおじいちゃんみたい……


ん?

おじいちゃん?


「美都様、よろしければこちらもどうぞ」


何か引っかかりを覚えていると、スっと音もなく、横から差し出されたのはシフォンケーキ。

それも、抹茶味。


「え、どうして抹茶……」


驚く私に、コスプレイケメンはふっと目を細めて微笑んだ。


「美都様は甘いものは得意ではないとお聞きしましたので、こちらをご用意させていただきました」


「あ、ありがとうございます……」


うわぁ、さすがイケメン。

やることなすこと全部が違う。


前もって好みをリサーチするだけでなく、笑顔のリップサービスまで。


ずっと真顔な人かと思っていたら、こんなに優しい表情もするんだ……


思わずドキッと心臓が跳ねて、慌てて視線を逸らした。


イケメンてのは、ほんとずるい。


何をしても様になるしドキッとしちゃうから、ほんと罪深いわ。


仮にも心の中では変なあだ名つけちゃってる相手なのにね。


「ふんっ!!」


旦那様は、なぜかまた不機嫌そうに鼻を鳴らしていたけど。
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