お嬢様、今夜も溺愛いたします。


「離しませんよ」


ぎゅっと背中に回された腕に、首の横に沈む顔。


えっ、えっ!?


思考をフル回転させて、今の状況をなんとか理解する。


天井から光を落とすきらめくシャンデリア。

そして視界の端に見える、艶のある黒髪。


もしかして私、押し倒されてる!?


「こ、コスプレ………じゃなくて」



えっと……この人の名前なんだっけ。

確かおじいちゃんが呼んでたはず……


えーと、えーと……


あっ、思い出した!!


「あのっ……黒木?さん?」


離れて欲しいという願いを込めて肩をグイグイ押してみれば、ふっと顔を上げる黒木さん。


よしっ、今だっ!!


ガバッと勢いをつけて起き上がろうとするも……


「黒木でいいですよ、お嬢様」


「っ……」


サラリとかわされたかと思えば、両手首をシーツに押し付けられて、もっと身動きが取れなくなってしまう。


顔が近すぎるっ!!


切れ長の瞳を縁どる、長い睫毛。

スっと通った鼻筋。


それが分かるくらいの至近距離に、瞬く間に心臓がドッドッと音を立てる。


落ちつけ私!!


「どうして私、押し倒されてるんでしょうか?」


あくまでも冷静にと発した声は、絶対震えてた気がする。


黒木さんは目を細めてふっと笑うと、私に跨るようにしてよりググッと距離を詰めてきた。
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