黎明センチメンタル
「おはようございます」

私が店に着くと既に従業員入口は開いていた。
事務所を覗くと眠たそうに欠伸をする山科さん。私の声に数拍遅れて気だるげな声。

「おはよう。昨日どうだったぁ??」

ぶわりと熱風に煽られて思い出す昨日の出来事。
私なんて目に入らないとでも言わんばかりの安倍さん。私よりも彼のエプロンの紐が気になって仕方ない安倍さん。

想像と違う、影内さん。

「なんか、イメージと違いました」
「誰が?安倍っち??」
「違います、影内さん」

私の言葉を鼻で吹き飛ばされた。ロッカーに荷物を押し込みエプロンに手をかけると向こうから声。

「影ちゃんは人見知りだし、まぁクサカホとは合わないかもね」
「……合わない、ですか。安倍さんみたいな人の方が合うんですかね」

きゅっ、と紐を結んでぽつり。全身鏡で身なりを整えていると山科さんが吹き出した。

「なんでそこで安倍っちが出んの?」
「だってぇ……影内さん、安倍さんとは話してた……」

煙草とライター、飲み物を持ち山科さんの前に座る。

「安倍っちがグイグイ行くだけで影ちゃんはなんも思ってないよ」
「安倍さん、私が挨拶しても無視して影内さんのエプロンの紐結び直してるんですよ。酷くないですか?」
「安倍っちらしいわ」

火をつけて、吐き出す煙。染みて視界が滲む。

「影内さんはもっと、こう、スラッとした人と思ってたからイメージと違った」

ブラックコーヒーを飲みながら言うと山科さんが灰皿に煙草を押し付ける。

「日下さんはもっと、こう、そういうのどうでも良いと思う人だと思ってました」
「イメージと違うのは、重大です!!」
「はいはい。ほら仕事するよ。」

イメージとは違うのに、口にすれば胸がトン、と浮かぶ。恋とは少し違うような、何とも言えない違和感。
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