プロポーズは突然に。
「別に普通に名刺見せただけだ。まぁ平日だし融通も利くんだろ」
「…贅沢しなくても普通の部屋で良かったのに」
「せっかくの旅行なんだから良い部屋の方がいい」
「…」
やっぱり彼は、オフだろうがなんだろうがセレブなんだ、と思い知らされるようなその発言に小さくため息が零れた。
慣れた様子で寛ぐ彼とは対照的に、広すぎる空間に狼狽え、立ち尽くしている私は間違いなく庶民丸出しだろう。
落ち着かないまま、徐に鞄から取り出した入浴セットと共に、部屋の隅に置かれた浴衣と帯も持ち、部屋の扉に手を掛けた。
「どこ行くつもりだ?」
そんな私を彼が何故だか引き止めるから、顔だけ後ろに向ける。
「…温泉。入ってくる」
「せっかく露天風呂付きの部屋にしたんだからここで入れよ」
「やだよ。大きいとこでゆっくり入りたい」
大浴場で入らないなんて、それこそせっかく温泉に来た意味がないと思った私は、そう告げた。