プロポーズは突然に。





「別に普通に名刺見せただけだ。まぁ平日だし融通も利くんだろ」

「…贅沢しなくても普通の部屋で良かったのに」

「せっかくの旅行なんだから良い部屋の方がいい」

「…」




やっぱり彼は、オフだろうがなんだろうがセレブなんだ、と思い知らされるようなその発言に小さくため息が零れた。


慣れた様子で寛ぐ彼とは対照的に、広すぎる空間に狼狽え、立ち尽くしている私は間違いなく庶民丸出しだろう。


落ち着かないまま、徐に鞄から取り出した入浴セットと共に、部屋の隅に置かれた浴衣と帯も持ち、部屋の扉に手を掛けた。




「どこ行くつもりだ?」




そんな私を彼が何故だか引き止めるから、顔だけ後ろに向ける。




「…温泉。入ってくる」

「せっかく露天風呂付きの部屋にしたんだからここで入れよ」

「やだよ。大きいとこでゆっくり入りたい」




大浴場で入らないなんて、それこそせっかく温泉に来た意味がないと思った私は、そう告げた。


< 230 / 370 >

この作品をシェア

pagetop