プロポーズは突然に。
『…さん、兄さん!』
律のその声にハッとした。
屋上の端にはもう人の姿はなくて…視界に入ったのは目を見開いたまま呆然と立ち尽くす彼女の姿。
お母さん、と言っていたから…飛び降りたのは恐らく彼女の母親だと思う。
そんな残酷な状況を目の当たりにした俺は、どうしたらいいのかなんて分からなかった。
『律…病院の人間にすぐに知らせてこい。あと、ここにも誰か呼んでくれ』
『う、うん、分かった…』
律がパタパタと屋上から出ていく姿を見届けた俺は、ゆっくりと彼女に歩み寄った。
彼女は小さく震えていて…
俺には何もできない。何も声を掛けられない。
だから……とにかくその震える手を握り続けた。
『手………冷たいな』
現実から目を逸らすように、そんな言葉を掛けながら。
屋上から下を覗き込めば、そこは有り得ないほど悲惨な状況だろう。
それなのに、母親が目の前でそんなことをしたのに。
彼女は………泣かなかった。