プロポーズは突然に。
それから何分かして、律が戻ってきた。
すぐに病院の人間が対処したものの、人通りが多いこの場所で起こったそんな悲惨な出来事に、下は大パニックになっているらしい。
だからなかなかこっちには誰も来てくれなくて…
そんなときに鳴り響いたのは律の携帯だった。
すぐにその電話に出た律は血相を変え、
『母さんの容態が急変したって…父さんが早く戻れって言ってる』
『…』
最悪のタイミングだと思った。
この状況で、彼女をここに一人で残すことなんてとてもできない。
だから、どうすればいいのか…自分でも分からなかったんだ。
静かに頭を悩ませていると、呆然としていた彼女は色褪せた瞳で俺を見ながらゆっくりと口を開いた。
『私は平気ですから…お母さんのところに行ってあげてください』
『いや、でも…』
『…私は大丈夫です』
『…』
こんな状況なのにとても気丈に、そしてまた下手くそな笑顔を浮かべながらそんなことを言う彼女に俺は何も言えなかった。
『ここにもすぐに誰か来るから。だから早く、兄さん!』
『…っ、』
苦渋の選択だった。
彼女の冷えきった手を、震えていたその手を…
俺は離してしまった。