秘密の恋は1年後

 ――あれから数日。
 なにごともなく日々は過ぎ去り、新年度を迎えた。

 千堂新社長は人事部にも顔を出し、「これからもよろしくお願いします」と丁寧に挨拶回りをしていった。
 どんなに地位を得ても、人当たりの良さと謙虚な姿勢は変わらない。間違いなく、社をより成長させてくれると社員の誰もが期待しているだろう。


 昼休み、外でランチを済ませ、帰りに書店に立ち寄った。
 目指すは文庫本の陳列棚。探しているのは、華やかでかわいいカバーイラストで表紙が飾られたもの。

 買い集めるようになったきっかけは、入社して一カ月ほど経った頃、書店でかわいいイラストの小説を見かけ、恋愛モノなら読んでみようと内容をろくに確かめずに買ったのが始まりだった。
 いざ読んでみると、ドキドキしたりきゅんとしたり、時に切なくなったりと心が満たされた。ヒロインになった気分で、あっという間に読了したのを覚えている。

 タイトルが刺激的なものもあるけれど、内容は胸キュン間違いなし。今では好みの作品を探すのが日課になった。
 自宅の本棚には数十冊の書籍が並び、週末に暇を見つけては読み返すこともある。

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