秘密の恋は1年後

 大勢の社員が等間隔で並び、順に背を向ける。私と尚斗さんは、エレベーターの中ほどに並んで立った。


「おはよう、麻生さん」
「あ、おはようございます」

 後から乗ってきた人事部の男性の先輩社員に挨拶を返す。


「今日も暑いね。外出予定入ってるみたいだけど、夕方でも間に合うだろうから無理しないで」
「ありがとうございます」

 先輩は社長にも挨拶をしてから、私の左斜め前に背を向ける。

 接点の少ない尚斗さんと私が噂になることもないので、こうして居合わせても問題は起こらない。

 だけど、今日は淡い黄色のネクタイを締めていると知っていたことも、なにもかもがふたりの秘密なのだ。
 そう思ったら、極秘の社内恋愛がとても楽しく感じられる。
 

「麻生さん」

 囁き声で尚斗さんに話しかけられ、目が飛び出そうなほど驚いた。
 彼はできるだけ私と接点を持つことを嫌がると思っていたのに。
 
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