秘密の恋は1年後
お通しに出されたピクルスやクリームチーズと生ハムのマリネをつまむ。
この店の料理はどれもこれも美味しいから、お酒が進んでしまいそうだ。まだ月曜だし、あまり飲みすぎないようにしなくちゃ。
話があると言ったくせに、なかなか言い出さない姉を見遣る。
彼女は早くも中生ジョッキを開け、二杯目を頼んだ。
「私、来期から井浦社長の秘書になるの」
「えっ!? 美桜ちゃんが!? おめでとう!」
姉はキャリアウーマンを絵に描いたような人。
すらりとしたスタイルとクールな顔立ちが美しく、考え方も理路整然としていて、二十九歳になった今も変わらずモテる。
私にはないものを持つ彼女を妬んだことはなく、今でも自慢の姉だ。
親会社の社長秘書なんて、なろうと思ってなれるものではないだろう。それなりの正当な評価がなければ与えられないポジションだと思う。
だけど、彼女は嬉しそうじゃない。
高校生の頃から、一流企業の秘書になるのが目標だったから、やっと登りつめたはずなのに。