クールな社長の耽溺ジェラシー


「あれ? 新野さんは……」

エレベーターで一階に降り、エントランスから出るとマンションの前には一台の高級車が停まっていた。違う人のものかと思って通り過ぎようとしたとき――。

「ここにいる」

すぐそばで新野さんが立って、私を待ってくれていた。

ネイビーのジャケットに白のTシャツ、細身のパンツという気取らない格好なのに、高級車の隣で立っているとモデルが撮影でもしているのかと勘違いしそうだ。

「え、く……車が違いませんか? 前は日本車の四駆でしたよね?」

きれいに磨かれた黒の車体は太陽の光を眩しくはね返し、紋章のようなエンブレムがきらりと輝いている。

新野さんらしくない車だけど、よく見かけるオープンカータイプではなく、大きめで悪路も走れそうなタイプは唯一新野さんらしかった。

「前は仕事用で、こっちはプライベート用。気分転換になるから持ってるだけで、べつに何台も持つほど車が好きなわけじゃない」

気分転換のために買える代物ではないのに、新野さんがあまりにもさらっというからそういうもんなのかと錯覚しそうになった。

「今日は仕事のこと、忘れたいしな」

意味ありげに私を見つめ、色っぽく口角をあげた。

「そ、そうですね……って言っても、すでに頭からなかったですけど」

起きたときから、というより昨夜から新野さんのことしか頭になかった。

気の抜けた笑みを漏らすと、新野さんが腰をかがめて顔を覗きこんでくる。

「じゃあ、この格好も俺のため?」
「まぁ……はい」

本人に向かって、あなたのためにオシャレしましたというのは恥ずかしく、上目になりながら小さくうなずくと、新野さんは口元を押さえた。


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