クールな社長の耽溺ジェラシー


「……まずいな……すごいクる」
「くる? なにがですか?」
「いや、なんでも……」

ごまかすように咳払いをすると、優しい眼差しで私を見下ろしてきた。

「すごく似合ってる。……かわいい」
「あ、ありがとうございます」

やった! 欲しかったひと言を引きだせた! 満足感で心が満たされ、飛び跳ねたいくらいだった。

「そろそろ行くか」

助手席のドアを開け、私を中へと招いてくれる。

見ただけでも乗り心地が良さそうだとわかる革張りの座席にラグジュアリーな車内はそれだけで別世界へ迷い込んだ気分だった。

私が座るとドアを閉めてくれ、新野さんが運転席へ乗った。

「とりあえず、走るか」

ハンドルを握り、白い歯を覗かせた新野さんは見惚れるほどかっこよかった。

こんな人が私の彼氏か。やっぱり、実感湧かないな。

じっと見つめていると、ひざに置いていた手に新野さんの大きな手が重なった。

驚いて一瞬手を引きそうになったけれど、指先で甲や指の間をくすぐられ、あたたかな体温が心地よくてしばらくされるがままになった。

「緊張してる?」
「ちょっと……。でも、楽しいです」

車はボリュームを絞った洋楽が流れるだけで、面白い会話をしているわけでもないのに、一緒にいるだけで楽しいと感じる。

「なら、よかった」

安心したように息を漏らした新野さんに、私と同じように少しだけ緊張していたのかもと嬉しくなった。


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