クールな社長の耽溺ジェラシー
「そんなところまで見るのか。仕事しすぎだ」
新野さんはクッと短く笑うと、グラスをテーブルに置いて背もたれに体を預けた。あきれているようで、でもちょっと楽しそうに見える。面白がられているのかもしれない。
「よく影を見なさいって言われるんです。それで、つい」
「……ああ……正司さんか」
少し間を置いて、伏し目がちにつぶやく。
新野さんの言う通り、照明は照らすことと同時に“影を作る”ことであると教えてくれたのは正司さんだった。
その名前が出ると、新野さんの表情は暗くなった。それがどうしてなのか、わからなくてモヤモヤする。
まだ一時間ほどしか一緒にいないけれど、仕事に対して真摯なのがよくわかった。いろいろなところで持ちあげられているのにおごったところも見られない。
新野さんは悪い人じゃない。なのに、どうして正司さんにだけ突っかかるんだろうか。……やっぱり、訊いてみたい。
「やっぱり、訊きたいことがあるんだろ」
見つめていると、新野さんが伏せていた視線をあげた。目が合った瞬間、逃れられない視線にうろたえてしまう。
「えっ、そ、そんなことは……」
「そうか?」
言葉よりも視線で訊き返される。感性が鋭い人は勘も鋭いのか。
「あー……えっと、さっきの場所はどんな感じにするか、イメージは浮かんでいるんですか?」
「……訊きたいこと、それじゃないだろ」
「う……」
やっぱり鋭い。
ふたりの間になにかあるというのは、勘が鈍い私にもわかっていた。とはいえ、真正面から聞けるはずもない。