クールな社長の耽溺ジェラシー
「そ、その……どうやったら相手が求めるものを掴めるんでしょうか」
「……今、小夏がやってるんじゃないか?」
「そう、なんですかね」
クライアントが求めるものを掴みたくて、新野さんとふたりきりで下見をしている。
デートという甘い雰囲気はないけれど、協力もしてもらっているのに掴みきれていない。
「ま、そんな簡単にうまくいくもんじゃない。何回もやり直して、完成するものだろ。だから……小夏のそういう姿勢はいいと思う」
新野さんは私をまっすぐに見つめて優しく微笑む。
いつもとは違う柔らかな表情に、胸がきゅっと苦しくなった。なにこれ。
「に、新野さんも何回もやり直すんですね」
「当たり前だろ。何回も繰り返して……いいものができたと思ってクライアントにプレゼンしても、通らないことだってある。いまでもだ」
「いまでも……」
クライアントから指名されるほどのデザイナーになっても、有名な事務所の社長になっても、まだ提案が通らないこともあるということは驚きだった。
世に出ているものは素晴らしい設計だから採用されているだけで、きっと見えないゴミ箱にはたくさんの書き直した設計図が入っている。
その努力を同じ仕事をしているなら察するべきだった。
「……すみません」
「なんの謝罪だ」
新野さんは気にした様子はなく、困ったように笑っていた。