クールな社長の耽溺ジェラシー
さっきの打ち合わせで結果は知られているけれど、悩んでいるときに話を聞いてもらったから、ちゃんと自分の口からも伝えたかった。
「あの……新野さん、さっきの話なんですけど」
イスから立ちあがって新野さんと向かい合せになる。
ただ前を向いただけだとたくましい胸板しか見えないので顎をあげたら、端正な顔はまっすぐに私を見下ろしていた。
「並木通りの話か? プレゼンには参加できなかったけど、ふたりの図面を見せてもらったよ。小夏のもよかった。……惜しかったな」
新野さんの優しい言葉に、私は首を振った。
「いえ、全然……完敗です」
正司さんには明るく語れなかったのに、新野さんには心のひりつきも申し訳なさも、変なうしろめたさもなく話せる。
完敗だと口にした自分をカッコ悪いとも思わない。
スッキリとしていて、新野さんの前では自分を取り繕わなくてもいいと感じた。
「そうか」
新野さんは納得した顔でうなずくと、再びパソコンの画面に視線を落とし、腰を屈めてマウスを動かしだした。
「え、そ、“そうか”……って、それだけですか?」
拍子抜けして、画面に目を凝らしている新野さんの顔を覗き込む。
「ああ。それ以上、なにか言うことあるか?」
「く、悔しいだろ、とか?」
「なんだ、悔しいのか。小夏が満足そうな顔してたから、それでよかったんだろうなって思ったんだけど、そうじゃなかったのか?」
「い、いえ、満足してます」
ぶんぶんと首を振ると、新野さんの楽しそうに笑う声が聞こえてきた。
「じゃ、いいだろ。おかしなやつだな」
「お、おかしなやつって……」
つられて私まで笑ってしまう。
そっか、やっぱり私は満足しているんだ。
そう思っていたけど、新野さんに言われて本当にそうなんだと心から感じられた。