クールな社長の耽溺ジェラシー
「新野さん……?」
どうしたのかと軽く首を傾げてたずねると、なぜか手を伸ばしてきた。
「……間違っていない」
「えっ、ちょっ……」
腕を掴まれると、胸の中へと抱き寄せられる。
「な、なんで!? 新野さん?」
「小夏は間違っていないから、大丈夫だ」
さっきの冷たさはどこかへ消え、温かな声が頭の上から降り注ぐ。もっと私の背が高ければ耳元で囁かれているところだ、危ない。
「って、新野さん! これっ、また、セクハラっ!」
引き離そうとしても力が強くて離れない。
「悪い。今、抱き締めたい。頼む」
「頼むって……お願いされても無理です、から……」
こんなところを誰かに見られたら確実に誤解される。そう思うのに、引き離そうとする私の力は無意識に抜けていき、かわりに新野さんの力は強くなっていった。
どうしたらいい? こんな状況初めてだから、どうしていいかわからない。
男性が多い職場にいながら、いままでオフィスラブとは無縁で過ごしてきた。
前の会社でもこんなことなかった。そもそも好きでもない相手を抱き締める新野さんのことが、私には理解できなくて頭のブレーカーが落ちそうだ。
「この業界に限ったことじゃないが、いろんなやつがいる。それでも、小夏は小夏のままでいてほしい」
「新野、さん……?」
掠れた声で囁かれた言葉が切実な願いのように聞こえる。新野さんが苦しんでいるみたいで、私は抵抗することも忘れてただ目を瞬かせていた。
「急に悪かったな」
新野さんは腕を解くと、私の頭をなでて距離を取る。わりと情熱的な抱き締め方だったのに、離れるときはすんなりと離れてくれた。
「い、いえ。でも、こういうのはやめてくださいね?」
クールでも笑顔でもない新野さんの切なげな表情にあまり強く咎めることができなかった。