クールな社長の耽溺ジェラシー


「個人的に建物の設計から頼まれたものだ」
「えっ、建物の設計から……?」

そういえば、新野さんは一級建築士の資格をもっている。照明だけではなく、すべて設計できるはずだ。

「施主が昔からの知り合いなんだ。見るなら、連絡を入れるけど」

新野さんの作品を建設中から見られるなんて。こんな貴重な機会を逃したくない。

「ぜ、ぜひお願い――」

頭を下げようとしてスマホのアラームが鳴った。

あと三十分後に打ち合わせを控えている。そのあとは書類をまとめて……と考えていると、定時退社は難しそうだった。

「すみません、また機会がありましたら……」

エレベーターが設計部のある階に着き、ガックリと肩を落としながら降りる。すると――。

「きゃっ……!」

新野さんに手首を掴まれた。

「に、新野さん? どうしたんですか!?」

私を掴んでいない片方の手はエレベーターに添えられていて、ドアがガタガタと音を立てる。それとともに、私の胸も大きく音を立てた。

「何時に終わる? 待つ。飯食って行こう」
「そんな、どうしてそこまで……」

色っぽいというより必死という言葉が当てはまる誘いに戸惑ってしまう。なにか、私に伝えたいことでもあるのだろうか。

「俺が見てもらいたいんだ。……また連絡する」

パッと手を離すとエレベーターの扉が閉まる。新野さんの真剣な眼差しが、しばらく頭から離れなかった。


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