クールな社長の耽溺ジェラシー
「飲めるんなら酒も好きなだけ飲んだらいい。あと、これもうまいから食べてみろ」
店員が持って来たばかりの小鉢を勧めてくれる。わさび醤油につけられた生きくらげだ。
「ありがとうございます……んっ、おいしい!」
コリコリの触感と絶妙な味に声をあげると、新野さんも嬉しそうに笑った。
その表情に、まだ噛んでいたかった生きくらげをごくりと呑み込んでしまった。
さっきからいい顔で笑いすぎじゃないかと目を疑いたくなる。
正司さんにはいやな態度を取るのに設計は優しいし、私にセクハラしたかと思ったら実は大真面目だったり。
言葉はストレートでわかりやすいのに、この人自身は掴みどころがない。
「新野さんって、いっつもなに考えてるんですか?」
「八割照明だな」
即答と八割という比重の多さに驚いたけれど、それよりも気になるのは……。
「それって、残り二割はなんですか?」
「いいのか? 男に免疫ないんだろ?」
「……いいです、言わなくて」
動揺を隠したくてビールをあおるものの、新野さんにくすくすと笑われる。
「冗談だよ。残り二割でなに考えてるかなんて自分でもわからない。仕事のこと以外は寝て起きたら忘れてるから、もしかしたら十割照明かもしれないな」
このあと車の運転がある新野さんは、ウーロン茶が入ったグラスを口へ運ぶ。
やっぱりこの人は掴みにくい。薄暗い中で思いもよらぬ笑顔を何度も見せるから、ちらちらと覗き見るように様子をうかがった。