クールな社長の耽溺ジェラシー
ご飯を食べたあと、やってきたのはこぢんまりとしたスペースが防音シートで覆われた現場だった。
工事看板の現場管理者の欄には、新野さんの名前が記されている。
「これ、念のために。買ったまま車に積んでおいたやつで、まだ新しいから……ほら、臭くないだろ?」
やたらと新品を強調しながらヘルメットを渡してくれるので、受け取りながら笑ってしまった。
「はい、無臭ですね。ありがとうございます」
頭にかぶり、しっかりとあごのベルトを締めた。
仕事中じゃなくても建設現場ではヘルメットを欠かさない。これも職業病の一種だろうか。
新野さんが持った懐中電灯の明かりを頼りに、ふたりで歩く。
まだ工事がはじまったばかりの現場には壁も屋根もなく、柱が建っているだけで頭上には星が覗いていた。
「やたらと間取りが広いんですけど……ここ、住居じゃないですよね?」
「ああ、カフェになる予定だ。夫婦ふたりで目が行き届く大きさで、昼も夜も居心地がいい店にしてほしいという依頼で引き受けた。いまのところ順調だな」
懐中電灯で全体をぐるりと照らしながら見渡す。予定と実際の現場とのずれは、いまのところないらしい。
「さっきの店じゃないがここもコファー照明を使う。テーブルとカウンターにはペンダントライトで明るさを足して、料理がきれいに見えるライトを当てるようにするんだ」
フランス料理ならソースの艶やワインの光沢を意識した照明を、油を多く使う中華料理ならできたての風味を引き立てるために複数の点光源の映り込みを使う。
レストランやカフェに限らず、光は与えることだけではなく受けるほうのことも考えなくてはならない。