クールな社長の耽溺ジェラシー
「おいしそうに見えるのって重要ですよね」
一歩一歩と足を進めながら、ここがどんな雰囲気に仕上がるのか説明してくれる。
建物を新野さんが設計しただけあって、細かなところにも配慮が行き届き、照明との調和がすごく気持ちよさそう。
「オープンしたら絶対お邪魔します。私の行つけになりそうな予感がするんですよね」
「目が輝いてるな」
私を見た新野さんが小さく笑った。
「薄暗いのに、見えてないですよね?」
「見えてる……いや、見えてないか。けど、今の小夏の表情なら想像つくよ」
優しい声音で言うから、ドキリとした。
「ま、まだ知り合って間もないのにですか?」
「関係ない。どれだけ、その人のことを見ているか……じゃないか?」
そうなると私がどんな表情をしているのかわかるくらい、新野さんは私のことを見ていたということ?
たずねたいのに、鼓動の音が邪魔してうまく声が出ない。
「小夏のこと、結構見てる。……たぶん、正司さんより」
「な、なんで正司さん……?」
新野さんに喰いつくようにたずねると、頬に冷たいものが落ちてきた。
「あ、雨……」
真っ暗な空を見上げると次から次に雨粒が顔にかかった。
「そういえば夜から降るって言ってたな。そろそろ戻るか」
さきほどのしっとりした雰囲気はどこへ行ったのか。
いつもの新野さんに戻ると、車を置いた場所を指差した。
私がうなずいていると、エンジン音が聞こえ、一台の車が現場のすぐ近くで停まった。
「……誰か来た」