クールな社長の耽溺ジェラシー


目を凝らすと、街灯で照らされた軽トラが見える。中からスウェットを着た男性がふたり降りてきて、こちらへやって来た。

「小夏、こっち」

新野さんは懐中電灯を消すと、真っ暗な中、私をぎゅっと抱き締めて柱の陰に隠れた。静かにしないといけないと察して息を潜める。

暗くて静かで、神経が全部新野さんに腕に集中すると、彼に聞こえるんじゃないかと思うほど心臓が激しく脈打ちだした。どうしよう、これ、本当に聞こえそうだ。

「おー、よかった。ここにあった」

ヘッドライトの明かりが射し込み、ジャリッと砂を踏む音がして男性の声が響く。距離は近いわけではなさそうで、ひとまず安心した。

「つーかさ、監督の車あったよな? もしかしたら、近くにいるんじゃね? 早く帰ろうぜ」

男性が言った“監督の車”は、きっと新野さんの車のことだ。ということは、現場で働いている人か。

時間外に現場へ入ったことや忘れ物をしたことが新野さんにバレたらまずいと思ったようで、慌てた様子でふたりは車へ戻った。

あたりが暗闇に戻り、エンジン音が遠ざかると、かわりに鉄筋の足場の上を跳ねる雨音がよく聞こえるようになった。

「に、新野さん……これ、隠れる必要ありましたか?」

無許可で現場に踏み込んだのは向こうで、こっちは許可を取っている。しかも新野さんは責任者だ。

「責任者が現場に女連れっていやだろ」
「ま、まぁ」

女性扱いされることはあまり慣れていないけれど、悪い気はしない。

そういえば、新野さんは最初から私のことを女性扱いしてくれていた。妹や女の子扱いではなく、ちゃんと大人の女性として。


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