クールな社長の耽溺ジェラシー
「……適当、ね」
実家ならゴロゴロするし、友達の家だとしてもテレビを見たり、雑誌を読んだりして過ごせる。
けど、男性の家でする適当がわからない。友達の家と同じことをしていいと言われても、そわそわと落ち着かなかった。
「正しい適当って、どんな感じなんだろう」
風呂場にいる新野さんに聞こえるはずがないのに、小声でつぶやいてミルクティーを口へ運んだ。まろやかで肩の力が抜けていく、優しい味がした。
コーヒーももちろん飲めるし、嫌いじゃない。
ただ、どちらかというと紅茶、しかもミルクたっぷりなものが好きなだけ。些細な好みを誰かに覚えられているというのは、結構くすぐったいものだった。
それだけ新野さんが私を見てくれていたということ?
「……私を、かぁ……」
私は新野さんのなにを知っているだろう。
クールな顔して意外と笑ってくれること、社長扱いされたくない気取らない性格、仕事が生活の中心で、照明が好きな人には優しいことくらい。
食べ物の好みはまだわからないし、普段どんなところへでかけるのか想像もつかない。
「もっと、知らない顔があるんだろうな」
それはもしかしたら、とびきり甘い顔かもしれない。
ただ、有名な照明デザイナーとしてしか見ていなかったけれど、きちんと知りたくなってきた。
「プライベートな空間でも仕事のものばっかりなのに……ほかにどんな新野さんがいるんだろう」
リビングを見渡してみても、あるのはたくさんのフロアライトや建物関係の雑誌とカタログで、飾り棚に置かれているのはおしゃれな雑貨や観葉植物ではなく模型だ。
これじゃ、仕事を忘れたくても忘れられそうにない。仕事が趣味と言わんばかりだ。
照明関係ばかりの部屋は興味深いけれど、新しい新野さんの一面は収穫できず、ミルクティーを口に運んでいるとリビングのドアが開いた。