クールな社長の耽溺ジェラシー


「えっ、出るの早くないですか!?」

新しい半袖Tシャツとスウェットに着替えた新野さんはさっぱりとした様子で、濡れた髪をタオルで豪快に拭きながら現れた。

「他人の部屋でひとりにされても困ると思って」

ボサボサ頭でまっすぐに私を見つめてくる姿は、水浴びしたばかりの大型犬みたいな無防備さと男らしい色気が漂っていて、不覚にもドキリとした。

「そういう気遣いできるんですね。他人に興味ないって言ってたのに……って、すみません」

胸のざわめきを紛らわせたくて、思いかけず失礼な発言をしてしまった。

慌てて謝ると、新野さんは私に近づき、顔を覗きこんで悪い男がする笑みを浮かべた。

「……惚れた?」
「な、なに言って……」
「いや、いまなら雰囲気で流されてくれないかと思って。ま、こんな格好で惚れるわけないか」

挑発的だった微笑みが自嘲の影を帯びる。

私から離れるとキッチンへ向かい、冷蔵庫から水のペットボトルを取りだした。

「小夏は正司さんに憧れてるんだったな」
「はい。でもそれは照明だけで……って、あ、なんでもないです」

とっさに言い訳してしまい、恥ずかしくて視線を新野さんから逸らした。

「照明、か。正司さんを知ったのは美術館だったよな?」
「はい、すごく優しい人なんだと思ったら、本当にその通りの人でした」
「……そうか」

新野さんは少し含みのある相槌をして私の隣に腰を下ろし、ペットボトルの水を飲むと、口元を手の甲で荒っぽく拭った。

「新野さんは初めて会ったとき想像と違いましたけど、こうして一緒にいると照明通りの人なんだなって思いましたよ」
「照明通り?」

片手で首にかけていたタオルで、髪をがしがしと拭きながらたずねてくる。


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