クールな社長の耽溺ジェラシー


「はい、気遣いができる優しい人です」
「かいかぶりすぎだろ。優しい、優しくないで照明を考えてないから」
「それも意外です」

なら、どうしてあんなに心地のいい照明ができるのだろう。

緻密な計算だけじゃ、あの空間は作り出せない。意識せずに人に優しいものが考えられるならすごいことだ。

「小夏に言われるなら、優しい人よりいい男のほうが嬉しいけどな」
「い、いい男……」
「男として意識してくれたら、いくらでも悪い男になれる」

瞳の動きさえわかるほどの距離で見つめられ、一瞬息が止まりそうになった。

まだ濡れた髪が新野さんの色気を引き立てていて、経験したことがない世界へ引き込まれそうになる。

「わ、悪い男って、は、はは……」

自分はいま、どんな顔をしているのだろうか。

動揺を悟られたくなくて、作った笑いでごまかすとミルクティーを一気に飲み干した。

「あんまり長居しても失礼ですし、そろそろ帰ります」

立ちあがると、新野さんに手首を掴まれる。

「なんで? もう少しゆっくりしたらいいだろ」

いつも見下ろされていたのに上目遣いで、ねだられているような気分になった。

「でも、迷惑じゃ……」
「全然。部屋に小夏がいるって、新鮮で楽しいけどな。もう少しこの空気を味わいたい」

色気を振りまいていたのから一変した屈託のない笑顔に、全身の血が一気に巡りだす。

さきから新野さんに振り回されっ放しだ。これが計算じゃないなら、広瀬さんの言う通り天然たらし決定。ずるすぎる。

「そ、そうですか。なら、もう少し」

こういうとき、どう反応していいかわからない。もう一度座り直すと、ただ火照る体を静めたくて首元を手であおいだ。


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