クールな社長の耽溺ジェラシー


「ここ、知ってる……」

画面を見つめたまま、声が漏れた。頭の中に、ある美術館が鮮明に描かれる。

忘れたくても忘れられない、私がこの道へ進むきっかけとなった美術館だ。

「ここ……この美術館……正司さんが照明を手がけたところ……」
「見間違いだ」

聞こえてきた声はくぐもっていた。

「見間違いじゃありません、タイトルだって……ほらっ」

見えたタイトルはまぎれもなくあの美術館だった。記憶に刻まれた情景と図面がさらにピタリと重なる。

右下にある照明の設計担当者の名前は、正司さんではなく新野さんだった。

「どういうことですか、これ……」

隣の新野さんを見ると、目をつぶって深いため息をついていた。その姿にまずいと思っていることが伝わってくる。

「俺が閂建設にいたころのものだ。けど、いま見せているのはボツになったやつばかりだって言っただろ」
「でも……っ」
「小夏、よく見ろ。完成した美術館はエントランスが吹き抜けになっていて、この照明は存在しない」

納得がいかない私に、上体を前のめりにして画面を指で差した。

新野さんの言う通り、頭の中にある美術館もそこは吹き抜けになっている。だけど、そんなことは関係ない。

「設計の変更くらいよくあることです」
「ここも。積算ミスしている」

ほかの場所を指差す新野さんに、軽く横に首を振った。

「いいえ、こんなの……これが元になって、いまの美術館ができていることくらい、私にもわかりますよ」
「どんな経過があって、これができたかわからないだろ」
「それはそうです、けど……」

完成した美術館と図面に記された照明の配置、設計は重なる部分が多すぎる。

だからあの建物の照明の担当者には新野さんの名前、もしくは正司さんと新野さんの名前が記されるのが自然だ。


< 67 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop