Hybrid

えっ何この子!?
こ、こんな整った顔って世の中に存在するの!?
嘘やん!?

大学で同じ講義を聞く仲間にこんな顔は1人もいない。
と言うか、身近にイケメンというイケメンがいなかった為に、このシチュエーションは違和感ありありだった。
その違和感を解消すべく、まじまじと見つめてみる。
先程まで恐怖でバクバク言っていた心臓が、今度は全く違う理由で熱い鼓動を生み始めた。


まず滑らかすべすべで雪のように白い肌。
雪と言っても、誰かが踏み荒らして泥と混ざった雪のことではない。
誰にも踏み荒らされていない、太陽の光を反射してキラキラと輝く新雪だ。
あまりに白すぎて触れるのを躊躇ってしまう。触れた途端に穢れてしまいやしないだろうか。

そんな肌に映える少し長めの黒髪は……サラッッサラ。「ッ」が何個あっても足りないほど、サラッッッサラだ。
肌とは違ってこちらは見ているだけで指を通してみたくなるのだが、今離すと確実にお陀仏なのでぐっと堪える。

眉の形も長さも太さも完璧すぎる。
まさか書いているのか!?と思ってしまうが、正真正銘黒く艶やかな眉毛である。
では切っているのか?この翼で?……だ、誰かに切らせているのか?
後で手を離してもよくなったら、是非ともなぞってみたい。

睫毛は長めだが、長すぎてバッチバチということはない。
ツケマツケたバッチバチ女子が「きゃ〜おめめバッチバチ〜カワイイ〜」などと褒めそやすようなタイプではなく、ちょうど良き長さである。

観察していて気づいたが、唯一瞳が異様に丸く大きい。白目があまりない。アーモンド型で少し切れ長の目の、殆どが明るい灰色だ。
これは赤ちゃんの目と形状が似ている為、女性は母性本能を擽られて「か、可愛い……っ」と思う。
つまりこれは合法ショタ……しかしショタとは思えない顔つきなのでショタではない。え?どうでもいい?
ちなみに言うと、全体的に目が丸いという訳ではない。
ただ瞳が丸いのだ。
瞳が丸いのは他のだいたいの生物も人類も(私も)同じだが、彼の瞳は日本の玉職人さんが何年もかけてじっくり優しく磨き上げたように、丸い。

西洋人らしく少し高い鼻筋はシュッとしていて、まるで芸術界の巨匠が一筆書きでサラリと描いたかのようだ。
何故ここまで凹みも曲がりもなく出来上がったのだろうか。あまりに滑らかすぎて、こちらもつつっ…と指でなぞってみたくなる。

健康的な赤ピンク色の唇は少しぷっくりしていて、何ともせくしぃである。荒れてもおらず、この個体が非常に健康であることが窺える。
この唇に耳元で「I Love You…」などと囁かれれば、男女関係なく……あ、いや、女性という女性は恋に落ちるだろう。つい腐女子の価値観が出てしまった。

不思議なことに、ローブの途中から先が茶色くゴワゴワの羽毛に変わっている。
服も体の一部なのだろうか?
どういう構造をしているのだろうか……あ、後でローブを脱いでいただきt((


……細部を細かく見てみると、より一層イケメンだ。抱きついているこの姿勢に戸惑い始めた。
私は今全世界の女性達に対して非常に申し訳ないことをしているようだ。
ごめんちゃい。別に女性は嫌いなのでそこまでの罪悪感は抱かない。
……が。

が、待て……ここまで来るとむしろ問いたいが、此奴は果たしてイケメンなのか?

確かにサラリと流したツヤツヤの髪はイケメンそのものだが、形の良すぎる眉と言い鼻筋と言い、これは美人と言うべきなのではないか?
し、しかし何だ、可愛いとも言えるぞこの顔。真ん丸瞳の辺りなどは特に。

な、何て言えばいいんだ。


―――そう思った瞬間、体がふわっと浮いて無重力状態になった。

「ふおぉっ!?」

思わず声を上げて腕に力を込める。
い、イケメンの逞しい体に腕を回し、て……あっ♡

……などとボケる間もなく再び強い重力がかかった。
左足からずり落ちかけ、何とか右足を引っ掛けて体勢を立て直す。

彼を見やると、その麗しき口にワイルドにも小動物を咥えていた。
こちらから見える足裏の形状的に、野ウサギのようだ。血の臭いで探し当てられたという事実を鑑みると、怪我をして弱っていたのかもしれない。
……あ。


……狩りの瞬間を見逃した。


終わった。
脳裏に「_(:3」 ∠ )_」の顔文字が浮かんだ。

彼は野ウサギをパッと離して再び咥え、その勢いで丸呑みにした。ちょうど、鵜やワニなどが獲物の魚を一呑みにする時を思い浮かべてほしい。歯がない生き物がよくやる食べ方である。
……ん?彼には歯があるな……つまりこの歯は獲物を噛み砕く用には出来ていないという訳だ。考えてみればワニにも歯はあった。

言い直せば、顎一体の筋肉やら骨格やらが、物を噛む構造をしていないのだ。歯は獲物を捕らえる為に進化させたものらしい。


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