気がつけば・・・愛
「ごめんなさい・・・
泣くつもりじゃないのに私」


「いいえ、あなたを泣かせてしまった
・・・・・・ごめんなさい」

低くて柔らかな声に潤む目を向けると


「あゆみさんの不安な気持ち・・・
全部受け止めますから」


丸い目に力が宿るように
住職の気持ちが伝わってくる

頭の中の“でも”“だって”の葛藤が
不安な気持ちを表情にする

勢いに任せて好意を口にしたこと
歯止めがきかず抱きしめてしまったこと
不意の口付けも全て
涙を流す原因にしてしまった

それでも・・・いい

道を外れた戒めの涙と受け取り
思いを遂げただけで終わらせたくないと

涙が止まるまで紡がれる言葉に救われた


「時間・・・大丈夫ですか?」


「はい」


「もし、もしも何かあったら」


「大丈夫です、私のことなんて
興味無い人なので』




・・・



寂しい顔をしたあゆみさんを
放っておけない衝動に駆られるけれど
もう一度触れたら帰せなくなる
良憲はそう思って伸ばそうとした手を諦めた


少し落ち着きを取り戻した夕刻
お勤めまで一緒に過ごすと


車が見えなくなるまで見送った



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