気がつけば・・・愛
良憲さんが足を洗う間に通されたのは
ご本尊が鎮座する本堂

3ヶ月振りの瞳に引き込まれて
胸の前で手を合わせた

しばらくすると
さぁ、と呼びに来た良憲さんに
また手を繋がれて部屋まで移動する

小さなちゃぶ台を挟んで向かい合うと
漸く笑顔に戻った


「ごめんなさい」
先ず謝らなければと頭を下げる


「え?」


良憲さんは驚いたように目を見開いた
その顔を見て何か誤解があるかもと
早口になる

「3ヶ月も連絡しなくて」

そう口にすると良憲さんの眉が下がった

「あ、あぁ、そのことですか」


わかりやすく肩まで下げて
安堵した表情を見てそれが確信に変わる

「あの・・・」

早く話そうと思ったのに

「あ、あゆみさん
ご主人に会わせて下さいっ」

目の前で良憲さんが深く頭を下げた

「え、あ、あの・・・良憲さん?」

「あゆみさんにもうあんな顔させたくない」

あんな顔とは
お通夜の夜に見せた泣き顔のことだろう
あの切ない夜を思い出して胸がチクリと傷んだ

真っ直ぐこちらを見る良憲さんの
大きな瞳は酷く揺らいでいて

こんな顔をさせたことを悔やむより
大切に想われていることを感じられて嬉しくなる

「もう、会えませんよ」

少し笑顔で答えると

「え?」

大きな瞳が更に開いた





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