気がつけば・・・愛
「もう会いたくても会えないんです
それが良憲さんに会えなかった理由」

もう一度微笑んでから
会えなかった3ヶ月間の話を進めた

大学の友達である寛子のこと
用意周到に準備をして家を出たこと

離婚とそれに係ることまで
包み隠さず一気に吐き出すと

良憲さんの揺らいでいた瞳は
いつのまにか優しい眼差しに変わっていた


「野村あゆみです」


はじめましてと頭を下げると
サッと立ち上がった良憲さんは
すぐ隣に座って腕を引いて

あっ、と思った時には
白檀の香りに包まれていた


「あゆみさん・・・
一番辛い時に側に居られなくて
ごめんなさい
でも・・・これからは
ずっと、ずっと側に居ますから」

「なんだかプロポーズみたい」
クスクスと笑うと

「プロポーズですよ」
頭の上から降る声に
慌てて良憲さんを見上げる

「え?」

「だから・・・プロポーズです
野村あゆみさん、僕と
一生一緒に居て下さいますか?
僕の人生全てをあなたにあげる」

そう言うと顔が近づいて
ゆっくり唇が重なった

何度も角度を変えて重なる唇
温かで柔らかで心地よくて
また涙が溢れる

一度離れるとオデコを合わせて
「泣き虫」と笑われた

そして・・・

「返事は?」

催促される


この期に及んでまだ躊躇う理由が
溢れてくる

「年上だし、おばさんだし
バツイチだし、それに・・・」

「それに?」

「良憲さんの子供を産んであげられない」

本当の躊躇う理由はこれかもしれない
35歳の良憲さんにはもっと良い相手がいる

私では出来ないことを
叶えられるかもしれない

「前にも言いましたよね?
あゆみさんじゃなければ
ただのお坊さんです
その理由を話しましょう」







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