海賊船「Triple Alley号」

砲室の見学などを経て、僕もこの船に随分詳しくなりました。船や「連装砲」の見取図まで描けそうです。これをマルクル大佐に報告すれば大変お喜びになるでしょう。
しかし、それを描く時間はなくなってしまいました。海賊団の情報収集班が、不吉な情報を入手したと言うのです。他の海賊団が僕達を襲撃するつもりらしいのです。
もし衝突すれば、僕にとっては初めての戦いとなります。マルクル大佐にこのことを報告すると「無事を祈る」との返事が返ってきました。伝書鳩を鳥籠に入れ、洗濯籠の隣に置いて安全を確保します。

緊急集会が開かれ、船員は皆食堂に集合しました。
3船長はとてものんびりしていました。今日の夕食のメニューでも話すような気軽さで、戦いに備えるよう伝えました。犬耳がいつもより元気に跳ねている辺り、どうやら「虎」はその夕食が大好物のようです。
「まあ、戦うことになっちゃっても大丈夫だから。うちには戦闘番長さんがついてるし」
笑いながら「豹」が「虎」の肩を叩きました。「虎」は首をブンブン振って頷きます。その目が既に獲物を狩るような目付きになっていて、僕は気が気じゃありませんでした。
続いて「山猫」が静かに発言しました。
「武器の新調、修理などを必要とする者は、私に申し出なさい。名前を書いておくこと」
シゲがこっそり耳打ちしてきました。
「新調、修理、それから改造な!」
「えっ改造もするの?」
「当然だろ!まあ、改造系は虎先生の管轄だけどな。お前のもやってもらえよ、パワーアップ間違いなしだぜ!!」
パワーアップって……してほしくないです。

まだ戦闘になるかも分かっていないと言うのに、船員達(船長含む)はもうやる気満々でした。
シゲは3船長に習って自分の剣を磨いてばかりだし、ハルタは戦術に関する本を読み耽っています。何より怖いのが室長のタニさんで、全員の服に名前を縫い付けてくれましたが、その理由ときたら。
「万一首から上が吹っ飛んでも、服に名前書いてりゃそいつだって分かるだろ?」
確かにそうですが仮定する内容が怖すぎます。
丸さんはその横で楽しそうに全員分の防火頭巾を縫ってくれています。タニさんの話では、実は丸さんは銃の扱いがとても上手く、「虎」と共に先陣切って飛び込む「特攻隊」に配属しているそうです。一見そうは見えないのが怖いとのこと。
丸さんはニヘラッと笑って、
「豹船長に比べたら何でもないよ~」
とのんびり言いました。「豹」と比べるから何でもないだけでしょう。そもそもあの3船長が異常ですので、比べる対象としては相応しくありません。つまり、相当優秀だということなのでしょう。
タニさんは全員の名前を縫い終え、次に自分の武器を手に取りました。棍棒のようでしたが、やけに長いです。タニさんが棍棒の先を外すと、ナイフが突き出しました。殴ると斬るの両方に優れた武器、だそうです。絶対あの3人の仕業です。
神崎さんは武器は持っていませんが、得意気に僕達新人に何かのカードを見せてくれました。「203㎜連装砲射撃隊」の文字。神崎さんは射的が得意らしく、あの大砲を操縦する砲員として選出された特別隊に所属していました。
ウカミさんもかと思ってチラリと見たのですが、彼は変な形の剣を磨いています。僕の思いを汲み取った神崎さんが教えてくれましたが、ウカミさんは異国の剣「カタナ」と言うものに長けているそうです。丸さんと同じ隊に所属しているそうです。見たことない形でしたが、ウカミさんが持つと不思議と似合いました。似合うと言っても、目付きのちょっと悪い容貌ですので、色々な意味で。
ハルタは何を武器にしているのかと辺りを見回しましたが、これと言った武器が見当たりません。僕は海軍で借りてきた細身の銃がありますが、彼はどうやって戦うのでしょう。
「ハルタはどうするの?武器は?」
「僕かい?僕の武器は下層甲板の大砲だよ」
ハルタも神崎さんと同じようにカードを見せてくれました。
「えっ、あの大砲!?君が!?」
「うん。僕も狙撃は得意だから。でも僕が実際に撃つんじゃないよ。狙い合わせるだけだから」
そう言いながらもどこか嬉しそうです。入団審査の時に狙撃が得意だと言ったらその場でお役目をもらったそうです。僕も絵が得意だと言っていれば、戦いに直接参加せずに済んだかもしれません。残念です。
仕方なく、使ったこともない銃を磨き始めました。お古のそれは所々汚れていて、旧式らしく性能も悪そうです。
小さめの防火頭巾を縫っていた丸さんが興味津々に僕の銃を覗き込み、途端に目を輝かせました。
「うわあ!!これ、マスケットだね!どこで手に入れたのぉ?」
「えっ?どこって……て、適当に骨董品店で買いました」
「マッチロック式かぁ!フリントロック式に比べると劣ってるようにも見えるんだけど、意外と精度は高いんだよねぇ!僕も同じ型持ってるんだけど、まだまだ現役やってくれてるんだ~!」
「そ、そうなんですか?」
「うんうん!マッチロックもやっぱり良いよねぇ」
銃に詳しそうな丸さんが良いと言ったのだから、きっと大丈夫。価値なんて全然分かりませんが。
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