お見合いだけど、恋することからはじめよう

「と…とにかく、お昼食べましょうよ」

朝比奈さんがそう言って、秘書室の隅っこにある簡素なソファセットへ促した。
そして、ローテーブルに置いたランチバッグから、細長のランチボックスとサーモスのスープジャーとマイボトルを取り出す。

「……朝比奈さん、もしかして自分でつくるの?」

向かいのソファに腰を下ろした大橋さんが、驚いた顔で訊く。

「そうですよ。朝比奈さんはいつもお手製のお弁当ですよ」

朝比奈さんの隣をキープしたあたしは、ローテーブルに置いたマイバッグから、出勤前に買った美味しいと評判のお店のサンドウィッチとマイボトルを取り出した。

「大橋さん、ぶっちゃけて言いますけど、うちの両親は政略結婚ですが、今でも円満にやってるのは母親の手料理のおかげだと思ってます」

朝比奈さんの言葉に大橋さんが目を見張る。

「うちの母親は、家族を料理で手懐けておけば、大抵のことは丸く収まるって言います」

「わ…わたしも料理は習ったわよ。フレンチとかイタリアンとか」

大橋さんならそういうお料理教室に行ってそう。
でも、講師の先生に「丸投げ」してそうだけど。

すると、朝比奈さんは、大橋さんを見据えて訊いた。

「大橋さん、それ、ちゃんと再現できます?」

大橋さんが、うっ、と詰まる。

……やっぱり。

「フレンチは特にフォン・ド・ボーを取ったり、下拵(したごしら)えが大変だったりして実用性に欠けるんですよ。それに、大橋さんが狙ってるような男性だったら、そういう料理はレストラン(お店)で食べさせてくれます。
……それよりも、たとえ市販の顆粒だしを使ったとしても、簡単に手早くつくれる素朴な家庭料理がいいんですよ。そういうのは、レストランでは食べられませんからね。しかも、飽きがこないですしね」

「……ですよねぇ。あたしも今のうちにちゃんとおかあさんにお料理を習っておこうかなぁ」

あたしも思わずため息まじりでつぶやく。

「実は、あたし……お見合いの話が来ていて」

「ええぇっ⁉︎ あなたまで、わたしを裏切る気?」

大橋さんがムンクのように叫んだ。


……ほんとは、今日のお昼は朝比奈さんにじっくりと相談しようと思ってたのにぃ。

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