お見合いだけど、恋することからはじめよう
あたしたちは重い足取りで秘書室に入った。
「遅いじゃない。どこ行ってたのよ」
大橋さんがいきなり不平を言った。
「大橋さん、昨日は……」
朝比奈さんがめずらしくもごもごと歯切れ悪い。
「いいのよ。副社長とのことは吹っ切れたから」
あたしも朝比奈さんも、目を丸くする。
「実は、昨日あのことがあって帰ってから、うちのパパに『会社を辞めたい』って言ったのよ」
「ええぇっ⁉︎ 昨日、なにがあったんですかっ⁉︎」
あたしは思わずムンクのように叫んでしまった。
「そしたら、パパが『せっかくコネで入れてやったのに、辞めるとはっ!』って怒ったの」
ウワサでは大橋コーポレーションの社長は、娘を溺愛してるって聞いてたのに。
「それで、あのことを話したら、さらに激怒りしたの」
「『あのこと』ってなんですかっ⁉︎」
話がまったく見えないんですけれどもっ!
「副社長の婚約者が、朝比奈さんだと知ってたのよ。『そんな縁談を壊そうとするなんて、うちのグループの社員と家族を路頭に迷わせる気かっ⁉︎』って、生まれて初めて本気で怒られたわ」
大橋さんはあたしの「疑問」に答えることなく、マイペースに話を進めていく。
どうやら、大橋コーポレーションのメインバンクが、朝比奈さんちのグループのあさひJPN銀行らしい。
「おまけに『今までワガママに育てすぎた。これからは、おまえの給料で小遣いを賄え』って言われちゃったの」
そして、大橋さんはしれっと言った。
「だから、会社からクビにされないように、これからは真面目に仕事をしよう、って」