お見合いだけど、恋することからはじめよう

あたしたちは重い足取りで秘書室に入った。

「遅いじゃない。どこ行ってたのよ」

大橋さんがいきなり不平を言った。

「大橋さん、昨日は……」

朝比奈さんがめずらしくもごもごと歯切れ悪い。

「いいのよ。副社長とのことは吹っ切れたから」

あたしも朝比奈さんも、目を丸くする。

「実は、昨日あのことがあって帰ってから、うちのパパに『会社を辞めたい』って言ったのよ」

「ええぇっ⁉︎ 昨日、なにがあったんですかっ⁉︎」

あたしは思わずムンクのように叫んでしまった。

「そしたら、パパが『せっかくコネで入れてやったのに、辞めるとはっ!』って怒ったの」

ウワサでは大橋コーポレーションの社長は、娘を溺愛してるって聞いてたのに。

「それで、あのことを話したら、さらに激怒りしたの」

「『あのこと』ってなんですかっ⁉︎」

話がまったく見えないんですけれどもっ!

「副社長の婚約者が、朝比奈さんだと知ってたのよ。『そんな縁談を壊そうとするなんて、うちのグループの社員と家族を路頭に迷わせる気かっ⁉︎』って、生まれて初めて本気で怒られたわ」

大橋さんはあたしの「疑問」に答えることなく、マイペースに話を進めていく。

どうやら、大橋コーポレーションのメインバンクが、朝比奈さんちのグループのあさひJPN銀行らしい。

「おまけに『今までワガママに育てすぎた。これからは、おまえの給料で小遣いを賄え』って言われちゃったの」

そして、大橋さんはしれっと言った。

「だから、会社からクビにされないように、これからは真面目に仕事をしよう、って」

< 21 / 530 >

この作品をシェア

pagetop