お見合いだけど、恋することからはじめよう
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


「顔色、真っ青なんだけど……七海、どうしたのよ?」

倒れ込むようにして秘書室に入ったあたしに、誓子さんが駆け寄ってきた。

「まさか、社外取締役に対して粗相でもしたの?」

「い、いえ……違うんです」

あたしは首を振った。

「気分が悪いんだったら、医務室へ行く?
それとも、早退する?島村室長にはわたしから言っておくわよ?」

あたしの顔を覗き込むように誓子さんが言った。

「い、いえ……大丈夫です」

あたしは再度、首を振った。
そして、その後はなんとか定時までがんばった。

あたしは自分のことでいっぱいいっぱいだったから、とても気づく余裕はなかったけれど、誓子さんによると、朝比奈社外取締役にお茶出ししたあとの彩乃さんも、あたしに負けず劣らず顔色が悪くなったらしい。

とうとう身内が婚家の会社と関わりを持ち始めたのである。「政略結婚」が実を結んだ最初の収穫だ。

このときのあたしは、彩乃さんの気分がすぐれない原因を、てっきりこれで副社長との結婚が「退()くに退けないもの」となってしまったからだとばかり思っていた。

< 259 / 530 >

この作品をシェア

pagetop