お見合いだけど、恋することからはじめよう

『先週の金曜日に、先輩たちの同期会があったらしくて、武田さんが「赤木さんの営企での評判をうちの父親が聞きつけて、明日お見合いすることになったから、今日は早く失礼するね」って、うれしそうに話してたらしいよ。
……あたし、逆に先輩から訊かれたんだよ?
「赤木さんはいつ、秘書室の水野さんと別れたの?」って』

桃子さんの父親は、うちのグループの根幹にあたるTOMITA自動車の専務取締役だった。
その縁で彼女はTOMITAホールディングスに入社していた。

『ねぇ、武田さんからも、なにも聞いてないの?
……七海、彼女とすっごく仲いいよね?』

あたしは首を左右に振った。

彼女からは、なにも聞かされていなかった。
今朝から今まで、本当にいつもどおりの「平常運転」だった。

あたしたちの仲は、すっごくいいと思う。

入社してから指導係として社会人の「基本」を教えてくれた桃子さんは、あたしにとって会社での「先輩」というより「姉」のような存在だった。

もちろん、あたしが赤木さんと半年前からつき合っていることも知っている。
彼とのあまり他人(ひと)には言えない「馴れ初め」も、包み隠さず報告済みだ。


『……でさ、その先輩が言うにはね』

資料室にはあたしたち二人しかいないはずなのに、なぜか友佳は声を落とした。

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