お見合いだけど、恋することからはじめよう
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「秘書室」は相変わらずの重苦しさだった。

彩乃さんが副社長の執務室にはほとんど行かず、ますます思いつめた顔で、連日ここであたしたちと同じ業務を(おこな)っているからだ。

今は副社長に来客だということで、副社長室へ赴いているが。

「……彩乃、副社長ともう一緒に住んでるわりには、ずいぶん(こじ)れてるみたいね?」

誓子(ちかこ)さんは顔を(しか)めながら言った。

彩乃さんは結納を交わしたあとすぐに、義父母になる社長と奥様もいる副社長の実家で、同居を始めたそうだ。

「誓子さん、彩乃さんからなにか聞いてます?」

あたしは上目遣いで尋ねた。

「あの口の固い彩乃が、べらべらしゃべるわけないでしょ?
もし、この結婚が副社長の『オンナ絡み』でどうなるかわからない、なんて外部に漏れでもしたら、この『幸せな業務提携』の先行きが不透明かも、って情報だけで双方の会社の株価が一気に急落するかもしれないのよ?
……そうなると、投資家はもちろん影響を受けるだろうけど、従業員だってリストラしなくてもいい人までその対象になったりして、いろんな人たちの人生を狂わすことになるわね」

……ひえええぇっ。「政略結婚」って怖ろしい。

彩乃さんも副社長も、そういう環境の中で生きてるんだ。


うちの父親は、世間では「エリート官僚」って持て囃されてはいるけれど、所詮は公務員で一般ピープルの端くれだ。

そんな「普通の環境」に生まれついたことに心底感謝した。

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