お見合いだけど、恋することからはじめよう

しばらくして、先刻(さっき)の仔犬くんの店員がお通しとともに、生中とシャンディガフを持ってきた。

「……ふぅ」

一気に半分くらい煽った赤木さんが一息吐く。

これをオッサンなんかがやると、百メートル後方へドン引きしたくなるところだが、イケメンはなにをやってもサマになる。

あの頃、二十八歳だった彼は三十代になっていた。

福岡生まれで、大学入学の際に上京した彼は、急遽転勤になった名古屋にはまったく縁のなかったはずだ。

慣れない土地と仕事で揉まれたのであろうか、あの頃の少年のような屈託のなさが鳴りを潜め、代わりに堂々とした貫禄のようなものが備わりつつあった。


……要するに、男っぷりを上げて「帰還」した、ということだけれども。

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