お見合いだけど、恋することからはじめよう
「あれっ、髪型が違うから雰囲気がガラッと変わってるけど、君先刻のスペインバルにいた子だよね?」
赤木さんが驚いてバーテンダーに尋ねる。
名古屋では営業部に配属されていた彼は、さすがに一回見た顔は忘れない。
「ええぇっ⁉︎」
あたしはびっくりして仰け反った。
……道理で先刻のお店で彼を見たとき、既視感を感じたはずだわ。
会社近くの南青山のスペインバルを出たあたしたちは、青山通りでタクシーを拾った。
赤木さんはタクシーに、あたしの家がある赤坂見附とは逆の方へ進路をとるよう指示した。
そしてやってきたのが、渋谷の奥にあるこの隠れ家のようなショットバーだった。
「先ほどはどうもありがとうございました。
今夜はこちらの店と掛け持ちだったんですよ。
僕も今、こちらに入ったばかりです」
スペインバルでは下ろしていた前髪をオールバックにし、左耳にダイヤのピアスを装着した彼は「仔犬」感をまったく払拭して、にやり、と笑った。若いのは変わりないのだが、今の彼はどこからどう見ても「バーテンダー」だった。
「……かしこまりました。
メーカーズマークのロックと、ロングアイランド・アイスティですね」
彼はすぐさま振り向いて、バックバーからボトルとロックグラスとコリンズグラスを取り出した。