お見合いだけど、恋することからはじめよう

「人聞きの悪いこと抜かすな、茂樹」

諒くんが島村室長をぎろり、と睨む。

「彼女とはちゃんとした見合いで知り合って、婚約指輪とともにプロポーズして、承諾もしてもらった……あ、『会社』の上司の娘だからって、出世目当てで結婚するんじゃないぞ」

すると、島村室長も、諒くんに負けず劣らずの鋭い目で、ぎろりと睨み返す。

「水野さんはおれの会社での直属の部下だ。
彼女を悲しませるわけにはいかないんだ。
ちゃんと『整理』しておかないと、おまえとの友達の縁を切るからな」

しかも、普段は部下のあたしたちに対してすら敬語だから、一人称が「おれ」のタメ口だけでも凄みを感じる。

「えっと……今夜会う諒くんの『遊ぶ相手』って、島村室長なんだよね?」

不穏な空気の中、あたしは上目遣いで諒くんに尋ねる。

「昔は確かに、ななみんがドン引きするようなこともしてたけどさ……今はもう、そんなことはないから安心してくれ」

……『ドン引きするようなこと』?

いつぞやも、突っ込んでじっくりと訊きたいと思ったことを、またさらっとおっしゃってる気がするんですけれども。

「今日は、ななみんに茂樹と会ってもらいたくて呼んだんだ。あとは、今はイギリスに行ってる松波 恭介っていう医者をやってるヤツだけど、それはこの前話したよね?……でも、茂樹は弁護士の資格があるから、法務部じゃなかったっけ?」

あたしを見つめる諒くんの顔が、ほわっとやわらかくなる。

「ううん、今のところはまだ秘書室の室長だよ」

あたしが首を左右に振る。


……もしかして、あたしと諒くん、ある意味「似た者同士」なのかも?

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