お見合いだけど、恋することからはじめよう

諒くんの隣に腰かけた島村室長が「とりあえずビール」とオーダーしたあと、

「おい、翔……こいつら、まさか、ずっとこの調子か?」

と尋ねると、翔くんがははは…と(うつ)ろに笑った。

すると、カウンターに肘をついた島村室長は、はぁ……っと深いため息を吐いて、

「……失恋したての身にはつらいな」

ぼそり、とつぶやいた。

……えっ、島村室長が失恋っ?だれにっ⁉︎

思わず身を乗り出しかけたあたしに、諒くんの腕が伸びてきて、抱きしめられるような形で制される。

諒くんからふわりとシトラス系の香りが来た。
イギリスのブランド、フローリスのセフィーロという香水だそうで、もう一人の「遊ぶ相手」である松波さんから勧められたものらしい。


「もうほかの男を見るんじゃない。
……死ぬまで、おれだけを見ろ。
おれだって、もう……死ぬまで、七海以外の女を見る気はない」

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