一円玉の恋
と、とんでもないことを言い出した。
盛り上がった会場は口笛やら「いいぞー。」など歓声が起こっている、女性客の中には若干憎々しげに見ている人もいる。
そんな事は山神さんはお構いなしで、マイク片手に公開プロポーズを試みる。

「えーーー。皆様、私は何があっても翠を手放しません。彼女が私にとって最高の女性です。それ以上もそれ以下もありえません。唯一無二の存在です。
だからね。翠離さないよ。俺と結婚して。ここにサインして。はい。」

と、いつの間にか壇上に用意されたテーブルの上に婚姻届が置かれている。
山神さんの名前は既に入っている。
うー。と唸りながら、山神さんの顔を見れば、満面の笑みを浮かべ私に「愛してるよ。三年も待ってあげたんだからね。もう十分でしょ?」と伝えてくる。
そして、トントンっと記入する箇所を指で示している。
うおーー。どうしたらいいの?
皆んな見てるし…。うーーー。
あーーー。もうっ!とペンを持って自分の名前を書き込んだ。
それを確認すると、サッと取り上げて、マイク越しに「兼子のお義父さん、これで許して頂けますよね?」と何故か聞いている。
お父さんがマルっと苦笑いしながらジェスチャーしている。何を?許すのよ!

最後に山神さんが「皆様大変ご迷惑をおかけしました。暖かく見守って頂き、ご協力ご静聴感謝致します。ありがとうございました。」と締めて、挨拶は終わった。
会場内は拍手やら応援やら悲鳴やらなんやらと大盛況だ。

どっと疲れた私の側に杏子さんが寄って来て。

「思った通りよね。出版記念パーティーなんてアイツが珍しく乗り気でやるから、なんかするとは思ってたけどね。」
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