一円玉の恋
と、毎度暴走する山神さんに半ば諦めて、私に哀れみの目を向ける。

「私も公開プロポーズまでは考えてませんでした。こんな所で婚姻届も書かされるなんて思ってなかったし。それにお父さんになんの許可、もらってたんだろう。本当、山神さんの行動は時々意味が分からない。」

と、もう!考えてる事が意味不明!とボヤく。
杏子さんがますます哀れみの表情を浮かべて、

「まあね。でも女避けには十分なって良かったかもね。あの男をメロメロにした女性って事で翠ちゃんは注目されるかもしれないけど、そこはアイツが守るだろうから心配ないと思う。それに私だって守るわよ。
それよりも、翠ちゃん!疲れてるとは思うんだけどね。今日はこれからまだまだ頑張らないといけないと思うのよね。だからね…とにかく頑張って。後の事は私に任せてね。大丈夫だから。」

と、頼もしいお言葉を何故か引き攣った笑顔で私に言って去って行った。
杏子さんなんか変?
どうしたんだろ?と後ろ姿を見送っていると、背後からガシッと腕を掴まれて、「じゃ、翠、行こうか。」と山神さんが私を引っ張って会場を後にする。
なになに?どこ行くの?皆んなは?
パーティーは?と疑問がたくさん頭に浮かぶ。山神さんは構わずに、

「あっ会場の事は出版会社のスタッフに任せてあるから大丈夫だよ。もう俺の役目は終わったしね。お父さんに許可ももらえたし。大丈夫。何も問題はないよ。もう我慢出来なくてね。翠、頑張るからね。よろしくね奥さん。」

と、訳も分からずホテルのエレベーターに乗せられ、着いた先は大層ご立派なスイートルームだった。

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