一円玉の恋
仕事部屋の片付けもだいたいの目処がたってきたので、夕食を食べに杏子さんのお店に行く。
「杏子さーん。」とひしと抱きつく。
「翠ちゃん、大丈夫だった?頑張れとは言ったけど…ちょっとやつれたんじゃない?」と顔を覗き込んで、心配してくれる。
「ええ、まあ…。」と目線を外して、冷めた目で答えると。
冷ややかな目を崇さんに向ける。

「なんだよ。抱き潰して何が悪い。こっちはちゃんと約束は守ったからね。文句言わせないよ。三年だよ!三年!褒めて欲しいくらいだよね。むしろ。」

と逆ギレしている。

「はいはい。えらい。えらい。アンタにしてはよく頑張った。」と杏子さんが感情を込めずに褒める。

「で、式はどうすんの?いつするの?」と杏子さんに聞かれて、

「来月には挙げたいかなぁ。で、いいでしょ?翠。」と、崇さんが決定事項のように言ってくるので、

「ええ、大丈夫だと…。仕事の都合でまだ分からないですが。」と曖昧に答えた。が、この男は性懲りもなく、

「そんなもの、ちゃんと根回しするから大丈夫。」と言ってくるので、ビシッとこめかみに青筋が立つ。

「はあっ!言っときますけどね、私はまだ平です。そんなにしょっ中会社休んでたら、信用無くなりますよね!私、崇さんと立場が違うんですからね!ただでさえ、この三年、強烈なお迎えのせいで、私の会社での注目度が高いのに…。
男性の同僚なんて、仕事でも近寄ってこないんですよ?分かります?私の苦労!」

と訴える。

「それは願ったりかなったりだなぁ。じゃあ、休暇明けからは朝も送ってあげるね。」とふざけたことをぬかしてくる。
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