一円玉の恋
人の流れに任せながら、一つ一つ水槽を巡って行く。綺麗な魚だったり、可愛いい熱帯魚だったり、混んでなければ幾らでも飽きずに眺めていられる。
水族館と美術館はどのアミューズメント施設よりも自分を異世界に誘ってくれる。
大好きな場所だ。

手は未だしっかりと握られたままだ、途中何度か離れてもまた繋ぎ直してくる。
「手汗すごいね。」なんて言ってくるから、「じゃ離して下さい。」って言うのに「やだ。」と言われて、そのまんまだ。
アンタ「やだ」が好きだね〜
ほんとアンタは一体何がしたいんだー。
そりゃこんだけ混んでるし、慣れないのに手は繋がれるし、汗もかくわいな。
嫌なら速攻離しやがれ!とククッと意地悪な笑みを浮かべ、私に振り返って来る山神崇を軽く睨む。
睨んだ所で通じてないようだが、嫌いだ、嫌いだと呪文を唱える。

そのまま、歩みを進めて行くと、出来れば避けたいゾーンに入って来た。
うわっやっぱりいるいる。
無理無理無理無理!
これだけは苦手と目を逸らし、山神崇の影に隠れてやり過ごす。
「何、どうしたの?」と私の態度を不審がって立ち止まろうとしてくる山神崇に、嫌ぁーここで立ち止まらないで。と、今度は私が手を引っ張る形で、ズンズンと前へと歩き出す。
ここはバレずに凌ぎたい。
だが、明らかに避けてる私の態度を見逃すはずもなく、「まさか、この、タカアシガニが嫌いとか?へえー。」とワザと私を引き戻してガラスに近づいて行こうとする。
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