一円玉の恋
鬼だねアンタ!やだ!本当に無理ぃーー。
もう本当、この大人嫌い!と、私は足にこれでもかと力を入れて踏ん張る。
絶対行かない、絶対に行かないいー。と綱引き状態だ。
ううっ、なんでこの人こんなに性格悪いのよ!悪魔悪魔!

断固拒否の体制を取っていると、急に引っ張る腕が緩んだ、そうなると私の体制が後ろに崩れそうになる、あっやばい人にぶつかる。
ただでさえ人が多いのに、こんな所でこんな事をしているなんて、迷惑以外の何者でもない。
そんな事を頭で考えていたら、また、山神崇に引っ張られた、今度は前にツンのめる。
えっなんで!と思った時には、山神崇の胸に吸い込まれた。「お客様、こんな所でふざけてたら皆さんのご迷惑ですよ。」としっかり抱きすくめられ、耳元で囁かれる。甘い香りが私を包む。
それはアンタだろ!と言ってやりたいが、暗がりとはいえ、人混みの中でしっかり抱かれている状態が恥ずかしくて、顔を上げられない。「ハハッ面白いね。」と言って抱きしめている腕を解放して、また手を繋いでくる。

「はい、ちゃんと前向いて歩きましょうねー。」

なんも面白い事なんてないわーー。
悔しいーー。
いい匂いまでさせやがって。
本当に本当に、この大人だけは無理だぁーー。

どんどんとまた人の流れに任せて進んで行く。あっ海月だーー。と今度は自らガラスにへばりつく。
わぁ、可愛いい。癒される。
ボーっと自分の世界に入って行く。
ユラユラと揺れる海月に吸い込まれて行く。
< 34 / 123 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop