一円玉の恋
なんと!取材ではなかったのか!
まぁ。私も気晴らしできたし、役得!役得!と考えておこう。ということで、

「そろそろ、手離してもらっていいですか?」

と山神崇に言ってみた。

「え〜。やだ。」ま〜た、「やだ」だよ。

ほんと面倒くせぇなこのおっさん。
やだじゃねえ!離せ!

「離してもらっていいですか!」

なんだ、その目は?なんで目を細める!もう一回!離しやがれ!

「離してもらえますか!」

「仕方ないなぁ、わかったよ。」

と言って、何を思ったのか、握っていた私の手をそのまま自分の顔に持ち上げて、頰に触れさせ妖艶に私に微笑みながらチュッと私の手の甲にキスをしてきた。
その目の前で繰り広げられた行為は自分の手が自分の物ではない様な妖しい感覚に囚われる。

恥かしさなのか、怒りなのか、ボッと顔が熱くなる。バッと力任せに自分の手を取り返す。何すんのよ!
「ふっ、残念。」とこぼす山神崇を本気で睨み付ける。
だがこの男は何食わぬ顔で「はい、ご飯ご飯」と前を歩き出した。

何をしたの?何でこんな事をしてくるの?と、あまりの衝撃で頭が回らない私は、動けないままだった。

「おーい。そんな所で固まってないで、はい歩くよー。」

と諸悪の根源が手招きしている。

アンタのせいだろ!
アンタが変なことをするから、石になるのよ!悔しい!いいようにされている、自分にも腹が立つ!
早く部屋を探そう!
早く早く、あのマンションを出なきゃ。
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