一円玉の恋
遅い昼食を摂った後、私達は残りの時間をお寺を巡ったり、図書館に行ったりと、余す事無く使った。
これは、取材という事になるのだろうか、格段何かを手伝わされる事はなく、ひたすら付いて回った。
確かに、山神崇の雰囲気は水族館で見せたものと、明らかに違う。
何を見るのも真剣で、ある意味近付き難い。
つい、私いるか?いなくてもいいんじゃね?と何度か思った。
別につまらないという事ではなく、単純に必要か否かで言えば否だろう。
こちらは山神崇の良い意味での発見や、今まで縁が無かった事にも触れられて勉強にもなる。これが仕事の顔なんだ、なんか大学の先生みたい、物書きさんって皆んなこんな雰囲気なのかな。そう思いながら、自分の今を考える。

私には、こんな真剣になる何かに出会う事が出来るのだろうかと、本来なら、地元の大学でも良かったのだ。
むしろ地元の方が親にとっても負担にならなくていい。
何か明確な目的があって来た訳じゃない。
都会で生活をしてみたかっただけ、そして無理をして、しがみ付いているだけ。
学ぶ事は好きだ、家族で観る洋画に影響されて英語が好きになった、英語が字幕を見なくても分かるようになりたい、流暢に話せるようになりたいと頑張ってはいる。
活かせる仕事にも就きたいとは思う。
だけど、この男の真剣な眼差しを見ていると、すごく自分が惨めに感じる。
お金を粗末にして腹が立ったけど、打倒格差社会なんてスローガン掲げてみたけど、この男はしっかりと自分の足で立っている人だ。
自分の生き方をちゃんと形に出来ている人だ。今の私は到底足元にも及ばなければ、一円の価値もない。
うーん、なんか悔しい。
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