一円玉の恋
水族館で見せた山神崇の妖しい行動は、家に帰ってからは全くない。
人混みの中で抱きしめられたり、手の甲にキスをされたりと散々な目に遭わされたのに、今はそれが何事もなかったように普段通りだ。
私も何故あんな事をしたのか聞く気もない。
残り少ない期間を平和に過ごせるのならば、それに越した事はない。

今日は、杏子さんの紹介物件に行く事になっている。
場所は、ちょうどいいし、お風呂もトイレも部屋に完備されている1LDKらしい。
それを聞いただけでも私にとっては、十分いい物件だ。
あとは、お値段次第になる。

朝食の時に山神さんに、(私の中で少し尊敬の念を抱いたので、心の中でもさん付けで呼ぼうと考えた。)物件見学をするから帰りが遅くなる旨を伝えた。
「ああ、そう。」とまた少し不機嫌な感じになる。
そんな事いちいち気にしてられるかと思い、大学の講義とバイトを終えて、杏子さんのお店に向かった。

杏子さんのお店はバイト先から結構近い、前のアパートよりも、という事はマンションよりも近い。
杏子さんは元々有名なお店で働いていたホステスさんで、今は独立してマンションとお店を構えている美人オーナーさんだ。
歳は山神さんより上らしいが、女性に年齢を聞くのは失礼なので聞いてない。
山神さんとの付き合いはホステス時代からで、たまたまお店が接待に使われた時に知り合ったらしい。
私から見て、二人の今の関係性はなんか大人で素敵だなぁと思ってしまう。
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