一円玉の恋
杏子さんのお店は、私が思っていたスナックのイメージと違い、男女問わず誰でも気軽に入れる雰囲気だ。
内装は黒を基調としたシンプルモダンな作りで、照明の角度や配置にもこだわっていて落ち着く雰囲気を醸し出している。
前にマンションで話した時、照明にこだわるのは、女性の顔がいかに綺麗に見えるかなど考えてと力説していた。

お店に入ると、カウンターで杏子さんがお客さんと楽しそうに話しをしていた。
私の顔を見ると、客の誰かに目配せをした。
んっ?と、杏子さんが見た方に視線を移すと、
山神さんが立ってこっちに向かってきた。
なんでいるの?と、向かって来た男に「どうしたんですか?」と聞いた。

それには、杏子さんが、

「なんか心配なんだって。私にとって食われるんじゃないかって。一緒に部屋を見たいらしいから、これ鍵ね。私も一緒に行ってあげたいんだけど、お店がちょうど混んできたから、悪いけど適当に見てくれる?掃除はしてあるし、あっ見終わったら、ブレーカー落として来てくれる?」

と言ってきた。

「あっ、分かりました。じゃあ、鍵お借りしますね。」

と山神さんと二人で上の階に向かう。

「山神さん、夕飯は?」

「まだ食べてないよ。翠ちゃんと帰ってから、食べようと思って来たからね。」

へぇ〜。ところで、と本題に入る。

「っていうかなんで来たんですか?朝は何も言ってませんでしたよね?なんかびっくりしました。」

とほんとになんで?としか浮かばないのに…。

「んーなんとなく。面白そうだからかな。」

と山神さんは的を得ない言葉で返してくる。

「はあ。」

この人の頭の中は面白いか?面白くないか?しかないのか?
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