一円玉の恋
「じゃあ、翠ちゃん。今度言ったら。ここを俺の口で塞ぐからね。」

と、ほっぺをつまんでた手を離して、今度は瞳に怪しい光を宿しながら親指で私の唇をなぞった。
ひっ‼︎あっだめ、一気に顔が熱くなる。

「はい!もう、絶対絶対絶対言いません!ごめんなさい。」

と頭を下げた。そんなことされてたまるかよ!ここは素直に謝ってやろうじゃない!けど、バクバクするよ〜。ううっ杏子さん助けてぇ〜。

「分かったらいいんだよ。分かったらね。いい子だねー」

と頭をいい子いい子と撫でてくれる。
うー。熱いよー。顔が熱いよー。
お父様、私心臓がバクバクします。
お父様が妖しいです。
ううっ誰か通報して下さい。

「じゃあ、翠ちゃん。迷子になったら駄目だから、お父さんと手を繋ごうねー。はい。」

と、今度は自分から仰って手のひらを出して来た。
ここにその手を乗せなさいと言わんばかりに。私も渋々従った。
山神のお父様はご満悦だ。

「はい。じゃあ、出発ね。ほんっと鈍臭い子のおかげで時間がないからね〜。ここからは巻きで行きまーす。ほら、マジで急ぐよ!」

いやーーぁ!鬼、悪魔、鬼畜、変態、暴君…などなど、面と向かっては言えない、ありとあらゆる言葉を思い付く限り心の中で叫んだ。

あっ、でもこの頃は、嫌い嫌いって呪文のように唱えていたのは無くなったなぁ。
やりましたね!山神のお父様。
少しは私の中で株が上がってますよ。
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