一円玉の恋
「じゃあ、下もお願いしようかなぁ。」なんてぬかして来る。
それは御免被りたいとバッと掴まれている手を引っこ抜いた。

「残念。」と、私の方に身体を向けて、また妖しく微笑んでくる。
そして何かに気づいたのか、スッと腕を伸ばして「泡付いてるよ。」と頭に付いた泡を取ってくれた。

「っていうか、泡だらけじゃん!もう、このまま脱いで入っちゃえば。」

といけしゃあしゃあと言ってくる。

「入りません!本日の業務は終了致しました。」とスクッと立って、湯殿を出てきた。

部屋に戻って泡だらけなのも気に止めず、へなへなと座り込んで、ダメ。ダメ。本当にダメ。
バクバクして全身がおかしくなる。
おじさんなのにおじさんじゃない。
やーん、どうしよう。本当勘弁してください。
私経験値低いんで、本当にやめて欲しい。
まだ、明日もあるのに。やーん、どうしよう。
お父様なのに。杏子さん命なのに。
そうよ、山神さんは杏子さんが好きなのよ。
首を縦に振らないのは杏子さんなのよ。
そうだ。やっぱり杏子さんが、ここに来れば丸く収まる。杏子さんに電話しよう。

「あっもしもし杏子さん?」

「あっ翠ちゃん、ごめん。いまお店忙しくて。明日掛け直してもいい。本当ごめんね。」

「ツーツーツー」

「………。」いえ、こちらこそすいません。
しょうもない事で邪魔をしました。
大丈夫です。乗り切ります。乗り切ってみせます!
あの、食虫植物のような男を倒してみせます。

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